今回のトピックは多くのAndroidスマホが対応する高音質コーデック”aptX/aptX HD”についてなんですけど、これ、先日レビュー記事を公開した“WH-1000XM4″は対応していないのです。
なぜ? どうして? と気になり少々ググってみたところ「aptX/aptX HDはそこまで優れたコーデックではない」というお話しを聞きまして。
WH-1000XM4のウィークポイントとして、aptX/aptX HDに対応してないってところを上げていたのですが、もしかしたら、これは音質を追求するために外されたのでは? と。
とまぁこんな感じで、今回は改めてaptX/aptX HDについておさらいしつつ「どうしてWH-1000XM4はaptX/aptX HDに非対応なのか?」を深堀してみようかなぁと。WH-1000XM4みたいにaptX/aptX HDに対応しないイヤフォンやヘッドフォンも増えてくるかと思うので、音質コーデックについて興味があるブラザーはご一読あれ。
WH-1000XM4のレビュー記事読んでないわ! ってブラザーはこちらの記事もあわせてどうぞ。
▶至高の音質と静寂のノイキャン「WH-1000Xm4」をレビュー – iyusuke
WH-1000XM4がLDACとAACのみでaptX/aptX HDに対応しない理由
それじゃ、まずは”aptX/aptX HD”ってなに? について簡単におさらいしておきましょう。
aptX/aptX HDは、SoC”Snapdragon”シリーズでおなじみクアルコム社の音質コーデックで、SBCやLDAC、AACに並ぶBluetoothの圧縮方式(A2DP)の一つ。
aptX/aptX HDエンコーダのソースコードが”Android Open Source Project”に寄贈された恩恵により、Android 8以降ではライセンス料が不要になったため、現行のAndroid端末では基本利用できるのですが、ヘッドフォン/イヤフォン側が対応するにはライセンス料が必要になるんですよね。
(そのため、低価格帯のBluetoothイヤフォンやヘッドフォンは対応しないことが多い)
これもWH-1000XM4がaptX/aptX HDを見送った理由の1つなのは間違いないかと思うのですが、一般的に言われているaptX/aptX HDの仕様についてささっとまとめておくと…
- 【aptX(エーピーティーエックス)】
- 高音質
- 低レイテンシー(遅延)
- データのエラー回復により、電波状態の悪い環境でも安定して接続できる(つまり、途切れにくい)
- SBCよりも優れた圧縮率を誇り、より多くの情報量を転送できる
- ハイレゾ音源を伝送する場合は44.1KHzまたは48KHz/16bitにダウンコンバートしてからデータを圧縮
こんな感じ。aptX HDはaptXをより拡張したコーデックとなっていまして。最大48KHz/24bitに対応し、48KHz/16bitのaptXに比べて256倍の細かな音を表現できるそう。
こうやって見てみるとaptX/aptX HDってメリットしかないじゃないですか? でも、さらに優れた能力を秘めた新参コーデックがありまして。それがSONYの自社製コーデック”LDAC(エルダック)”となるわけです。
- 【LDAC(エルダック)】
- データ転送量は”SBC(328kbps)”の3倍、990kbps
- 音質有線モードが”990kbps”、接続有線モードが”330kbps”で動作
- ハイレゾ音源のために作られたコーデック
- 96KHz/24bitのハイレゾデータをダウンコンバートせずに伝送できる
- SBCと同等の伝送レート”330Kbps”でも音がクリア
Android OSはAndroid 8以降、”LDAC”に対応し多くのAndroidスマホで利用できるようになったのですが、aptXとLDACを比較した場合、概ねLDACのほうが遅延が少なく、そして高音質であると。
LDACは遅延は少ないというデータは多くのメディアでも検証されていますし、それは当然SONYさんも認識済み。LDACはユーザーがビットレートを変更できるというメリットもあるので、すっぱりaptX/aptXを切り捨て、LDACに舵を切ったというわけですね。
ともすれば、aptX/aptX HDはライセンス料が絡んでくるのでコストもかかりますし、Apple製品は”AAC”、Android端末は”LDAC”を選択すれば遅延も少なく高音質で音楽を楽しめるので、現状、aptX/aptX HDに対応させる明確なメリットがないわけです。
音質コーデックの遅延については以下の記事が論文やデータを示し、非常に分かりやすく正確な情報を伝えてくれているので、気になるブラザーは以下の記事にも目を通しておきましょう。(ほんとめっちゃ詳しく書かれてて感動しました。僕ももっと勉強しなきゃなやつ)
WH-1000XM4がaptX/aptX HDに対応しないのはコンセプトに倣ったから
aptXやLDACについてのおさらいもあったので少々長くなりましたが、要約すると…おそらく、WH-1000XM4がaptX/aptX HDに対応しなかったのは”コンセプトに従ったから”というのが理由なのかなぁと。
開発者インタビューで語られたように、WH-1000XM4のコンセプトは「周囲のノイズをなくし、クリアな音質で音楽を楽しむ」です。
WH-1000XM4の発表イベントでは”音楽を楽しむ”という一転にフォーカスしてノイズキャンセリングや音質、音響特性について紹介されていたのですが、これらはいずれも”音楽を楽しむためのもの”であり、あくまでもWH-1000XM4は最高の音楽体験を得られるデバイスというわけですね。
より優れた音楽体験を追求したので、Apple製品は”AAC”で、Androidは”LDAC”で、Windowsは”SBC”で接続してくださいねってこと。
(音楽再生に特化したデバイスなのであれば、PS5での利用も想定しているというのは矛盾がある気がするのですが、WH-1000XM4が最高過ぎたのでこの際気にしない)
ただ一つ、勘違いしてはいけないのは音質コーデックを意識するよりも端末を意識したほうがいいということ。
SoundGuysが公開しているコーデックの遅延を比較したグラフによれば、スマホの機種によりaptXとLDACの遅延にほぼ差が無かったり、LDACよりもaptXの遅延が少なかったり。音質や遅延を意識するなら、コーデックによる違いよりも元々遅延の少ないGoogle Pixelシリーズのようなスマホを選ぶのが正解です。
とまぁこんな感じで。長々と語るのもな…と思って可能な限り短くまとめたんですけど、深い。音質コーデックで調べれば調べるほどに深くて。僕は音質コーデックについて知った気でいたのですが、まだまだ勉強不足だなぁと痛感しました。
とりあえず、WH-1000XM4はマルチポイント接続(2台の同時接続)でLDACが無効になってしまうので、Androidスマホでは控えたほうがいいかもしれません。(iPhoneはAACで接続するので関係なし)